人生は素晴らしいはず
長い間、夫と愛犬の介護に自分の時間を費やした妹が、ついに動き始めた。
妹は自我が出てきた頃から変わり者だったらしく、子供の頃は、声が出ないわけでもないし話せないわけでもないのに「話さない子」だった。
本を読んだり絵を描いたりするのが好きで、私とは違うタイプの子だったので、仲が良くも悪くもない姉妹だったと思う。
私の最初の結婚の時の式に、妹は真っ赤なワンピース、頭に細いリボン、いつものメガネという、とんでもなくダサい姿で現れた。
身なりに全く無頓着な妹を、母と叔母たちが着飾らせた結果だった。
妹は高校を卒業して就職したが、すぐに退職した。
詳しくは知らないが職場に馴染めなかったようだ。
そんな妹が次に選んだ仕事は、バッグやアクセサリーの店。
やはり何故その業種を選んだのかは知らないが「客商売なんかできるのか?」という家族の心配をよそに、妹はたちまちオシャレな販売員のお姉さんになった。
子供の頃を取り戻すようにお喋りも達者になっていた。
いつの間にか、妹はヴィジュアル系バンドの追っかけをやり始めファッションやメイクが変わっていき、子供の頃から書いていた漫画を同人誌即売会で売ったり、いろんなゲーム機でいろんなゲームをやったりと親同居独身生活を謳歌していた。
そのゲームがきっかけで、のちに難病を患って妹と結婚するSちゃんと出会うのだ。
妹はSちゃんと自分のために、望んで長い介護生活を送ることを選んだ。
そしてそれが終わり、妹は次のステージに向かおうとしている。
世間知らずで変わった感性の持ち主である妹の考えは、私にとっては理解できないことばかり。
「今住んでいる家を売って都会で仕事につく。漫喫暮らしも厭わない」と言う。
それはヴィジュアル系バンドのため。
信じられない!
歳を考えなよ!
とっさに思ったけど、ぷちこ!お前こそよく考えろ!
あの妹だぞ。
言葉を発せず何を考えているのかわからないから、母が苦肉の策で母子交換ノートをやっていた変わり者の妹だぞ。
その妹が、あの歳になってやっと自由の身になったんだ。
自分の人生、面白おかしく生きて何が悪いんだ?
夫と愛犬を亡くしてうつ病になってもおかしくないのに、妹は元気に飛び回っている。
それは本当に強くて、ありがたいことじゃないか。
これから妹がやろうとしていることを私は楽天的に考えてはいないが、止めることもしない。
ダンナと私は、Sちゃんの入退院や他界したあとも精一杯協力した。
だから、これから妹に何かあって助けを求めてきたら、できる限り応じるつもりだ。
妹には「明るく楽しくやってください」と一言返信した。
これは美談でも何でもない。
Sちゃんの葬儀関係の費用は全額立替えたが殆ど戻ってきてないし、これからも母の介護に関わる気がないとわかったのは癪に障る。
それでも姉妹だから。
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